香港・マカオ News

2016.03.19 / 

第13次5カ年計画、全人代で採択 香港への支援に変化

3月16日に閉幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では第13次5カ年計画(2016~20年)要綱草案が採択された。草案では第12次5カ年計画同様に香港に対する支援が明記されたが、観光業への支援が抜けたことが注目された。越境インフラプロジェクトの一覧もなくなるなど支援後退の感も否めないが、一方で若者への支援に言及している。

第13次5カ年計画要綱では「香港・マカオの国家経済の発展と対外開放の中での地位と機能を向上させる」として、初めて国家における地位向上に言及。香港については「国際金融、海運、貿易の3大センターとしての地位の強化・向上を支援。世界のオフショア人民元業務のハブとしての地位と国際資産運用センターとしての機能を強化。資金調達、商業・貿易、物流、専門サービスなどハイエンド・高付加価値の方向への発展を推進」「イノベーション・科学技術事業の発展、新興産業の育成を支援、アジア太平洋地域の国際法律・争議解決サービス・センターの建設を支援する」と明記された。

香港・マカオと中国本土の協力深化については「国家の双方向開放、『一帯一路』建設への香港・マカオの参入を支援、本土と香港・マカオ企業の各自の優位性を発揮し多様な形の協力を通じた海外進出を奨励」を提唱したほか、香港・マカオへの本土市場の開放拡大で「前海、南沙、横琴など広東省・香港・マカオの協力プラットホームの建設加速。汎珠江デルタなど地域協力を深化」「中小・零細企業と青年の本土での起業を支援」などが盛り込まれた。

第12次と同様に香港・マカオの独立した章が設けられたものの、香港・マカオ・広東省の協力プロジェクト一覧はなくなった。第12次では港珠澳大橋や広州―香港間高速鉄道など7件のプロジェクトが列記されたが、このうち3件が広東省自由貿易区の構成部分となった以外、4件は香港側の要因で予定通り進んでいない。これが珠江デルタ一体化計画の足を引っ張っていることや香港の近年の状況の変化を考慮し、中央は香港と本土の越境インフラプロジェクトに対して新たな姿勢を打ち出したとみられている。

立法会では3月11日、特区政府が提出した高速鉄道香港区間建設の追加予算196億ドルの申請が可決された。先に政府は予算申請が2月中に通過しなければ工事中断を検討すると発表していた。特区政府運輸及房屋局の張炳良・局長は2月29日に香港鉄路有限公司(MTRC)幹部と会議を行った際、2週間以内に工事中断計画を提出するよう要求しており、MTRCは中断計画を策定中だったが、辛うじて工事中断を免れた。だが完成予定は18年第3四半期まで先送り。港珠澳大橋も1月末に追加予算が通過したが、完成予定は17年末まで先送りされている。

第13次5カ年計画では第12次に盛り込まれていた「香港の観光業の発展を支援する」が省かれたことが疑問視されたが、国家旅遊局の李金早・局長が3月7日に全人代香港代表の会議に出席したほか、「計画に明記されてないから支援しないわけではない」と述べるなど懸念を払しょく。ただし旅行者排斥デモや観光客への買い物強要による死亡事件、さらには旺角暴動などで本土の旅行者が香港を避けている問題を示唆した。香港政府観光局(HKTB)の林建岳・主席が李局長と会談した際、李局長は「一帯一路」戦略の下で香港と本土の港湾が連携しクルージングを促進したり、悪徳な格安ツアーを撲滅するため、広州市との協力で始めた優良ツアーリストを他の地域にも拡大するなどの支援策を提唱したという。

全国政協の唐英年(ヘンリー・タン)常務委員(元政務長官)も他の委員とともに8日に李局長と会談。唐氏は記者会見で「観光業の発展支援」を再度5カ年計画に明記するよう要求する計画を明らかにし、委員84人の署名を集めたものの実現には至らなかったようだ。

1国2制度への挑発を批判

旧正月に発生した旺角暴動によって中央が対香港政策を引き締めるとの見方があったため、全人代会期中は中央幹部らの言動が注視された。対香港政策を主管する全人代の張徳江・委員長は4、6日、全国政協香港委員、全人代香港代表とそれぞれ会談。張委員長は政協委員との会談で「中央が対香港マカオ政策を変更し、1国2制度が変わる」との懸念に対し、「故意にこの問題を挑発し、香港人の1国2制度と中央に対する疑念と不信をあおる者がいる」と批判し、そうしたネガティブキャンペーンは成功しないと指摘。「1国2制度を変更しないのは承諾を守るだけでなく、国家の目標実現に必要」と説明した。銅鑼湾書店事件などが念頭にあるとみられる。旺角暴動にも触れ、「少数の過激派勢力が暴動を巻き起こし、香港の法治や国際的イメージを破壊した」と述べた。全人代委員との会談では自ら旺角暴動に触れなかったものの、ある委員が言及した際に「問題をすべて政治化したり街頭暴力に走ることは香港にとっていいことではない」と強調。「香港は街頭政治によって名をはせるのではなく、香港の地位は経済的地位によって決まる」と述べ、世界が評価する点として、経済、自由港、本土との特殊な地理的位置づけ、経済環境、法治環境を挙げた。

国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任も9日、全人代全体会議に出席する前に自ら記者会見し、対香港政策は変わらないと表明した。王主任は「香港で最近発生したことをめぐり中央の政策が変わるかが懸念されているが、中央の対香港政策は一貫し、揺るがないと責任を持って言える」と強調。1国2制度の方針は終始2点の原則を堅持しているとして、昨年末の習近平・国家主席の発言を引用し「動揺せず変わらない」「全面的かつ正確に1国2制度の方針を香港で実践し、変わらないことを確保する」という原則を説明した。また香港・マカオは第13次5カ年計画の国家政策と自らの優位性を結びつければ新たな発展の位置づけが見つかると指摘した。

全国政協の兪正声・主席が3日に発表した常務委員会の活動報告では、香港について「厳格に憲法と基本法に照らして事を行う」と初めて憲法に触れたほか、「青少年対策は2016年の主要任務の1つ」と強調。政協委員は青少年対策に積極的な役割を果たすよう求めた。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は憲法や青少年対策が強調されたことについて「国家の安全と利益を守り、中央の権利と国家体制を尊重する基本原則を香港人は理解しなくてはならない」「近年、本土派(排他主義勢力)や『香港建国』を唱える者が現れ、香港の若者が国家分裂勢力となることを懸念している」と解説した。5カ年計画でも観光業やインフラへの支援が消極的になった半面、若者の本土での起業支援に言及するなど青少年対策を重視しており、香港の状況に応じて支援の重心を移したといえる。(2016年3月25日『香港ポスト』)

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