香港・マカオ News

2017.05.25 / 

返還20周年迫る 新政権への障害排除

 7月1日に香港は返還20周年を迎えるが、新政権発足と合わせた記念式典のため中央幹部が来港するとみられ、警官9000人余りを動員する空前の警備体制が敷かれるもようだ。恒例7・1デモの規模も注視される中、近年の過激なデモ活動をめぐる逮捕や起訴が徐々に進んでいることは7月1日に向けた政治的配慮と指摘する向きもある。

 7・1デモを主催する民間人権陣線の区諾軒・召集人は5月10日、ビクトリア公園をデモ行進の起点とすることが当局に拒否されたと明かし「当局の決定は習近平・国家主席が来港するのに合わせた政治的配慮だ」と批判した。民間人権陣線は4月3日に特区政府康楽及文化事務署にビクトリア公園のサッカー場と中央芝生地を使用する申請を出したが、サッカー場は香港各界慶典委員会がイベントで使用する申請を3月に出していたため、民間人権陣線は使用できないとの通知を受けた。香港各界慶典委員会は6月末から7月初めまで返還20周年記念の科学技術展示会を開催する。香港各界慶典委員会は慈善団体であるため、康楽及文化事務署は優先順位のガイドラインに沿ったと強調している。

 昨今、セントラル占拠行動や旺角暴動などで違法行為を犯した者に対する逮捕や起訴が相次いでいるが、非親政府派の関係者らはことごとく政治的配慮と攻撃している。4月11日に本土派政党「熱血公民」の鄭松泰・議員が立法会で国旗を逆さまにした件で逮捕・起訴されたことに対し、熱血公民の黄洋達氏は「逮捕は政治弾圧」と非難したほか、最近多くの事件で起訴・判決が進んでいるのは梁振英・行政長官が退任前に林鄭月娥・次期行政長官のために障害を取り除こうとしているためと指摘した。

 本土派政党「青年新政」の梁頌恒氏と游蕙禎氏も4月26日に逮捕された。2人は昨年11月2日、立法会本会議の議場に乱入して宣誓を強行し、混乱によって警備員6人が負傷する騒ぎを起こした。警察は5カ月を経て「違法集結」「強行進入を企てた罪」で2人と元秘書ら3人を逮捕・起訴。2人は議員資格喪失の判決をめぐり終審法院(最高裁)に上訴を申請しており、8月に上訴を許可するかどうかが決定される。2人の逮捕について民間人権陣線は「次期政権のための地ならし」と形容。だが民主党の林卓廷・議員は、黄毓民・元議員が議場でグラスを投げた事件で起訴された例を挙げ、「いかなる抗争行動も文明的、平和的に行うべき」といさめた。

 香港警察は4月27日、立法会議員の就任宣誓に関する基本法解釈に反対するデモが大規模な衝突に発展した昨年11月6日の事件をめぐり9人を逮捕・起訴した。逮捕されたのは社会民主連線の呉文遠・主席と周嘉発・副秘書長、陳文威氏、香港衆志常務委員の林淳軒氏と林朗彦氏、大専政改関注組の葉志衍氏と廬徳昌氏、嶺南大学学生会の鄭沛倫・前会長、人民力量の周樹栄氏ら。起訴の罪状は呉氏と林淳軒氏が「他人に公共の場所で秩序を乱す行為を煽動した罪」で、ほかは「違法集結への参加」や「公務執行妨害」「警官襲撃」。林淳軒氏は昨今の逮捕・起訴活動を「梁振英政権の大型政治清算」と批判。非親政府派議員25人は連名で政治弾圧と非難する声明を出し、民主党の涂謹申・議員は「7月1日までに抗議活動を大幅に減らす狙い」と強調した。だが民主建港協進連盟の陳克勤・議員は「香港では毎日のようにデモが行われているが、違法行為がなければ起訴されることはない。民主派は何でも『政治弾圧』と言って本来の違法行為をごまかすべきでない」と批判した。

 昨年の春節に発生した旺角暴動では4月11日までに逮捕者が91人に達した。うち男性80人、女性11人、年齢は14~70歳。すでに57人が暴動、放火、違法集会、警官襲撃、逮捕拒否、公務執行妨害、攻撃性の武器所有、公衆の場所で秩序を乱す行為、犯罪または不誠実な意図でのコンピューター使用といった罪で起訴され、4月10日までに4人に有罪判決が下された。法律学者でもある香港経済民生連盟の梁美芬・議員は判決を評価したものの「セントラル占拠行動と旺角暴動を鼓吹・煽動した黒幕がまだ法的制裁を受けていない」と指摘し、当局に厳正な処理を求めた。

マカオ視察で香港に啓示

 全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の張徳江・委員長は5月8~10日、マカオを視察した。マカオ国際空港に到着した張委員長は今回の目的を「体感、視察、激励」と表現。マカオに実際に赴き返還以来の成果を体感し、中央を代表して特区政府の報告を聴取し政策の実現状況を視察、構造転換の重要な段階にあるマカオを激励するためと説明した。

 全国香港マカオ研究会の李暁兵氏は張委員長の発言を「中央はマカオの1国2制度の実践を高く評価し、マカオ経済の多角的発展を注視している」と分析。社会の反発や衝突を招きやすい基本法23条に基づく立法を順調に通過させて中央との高度な信頼関係を築いたことなどを挙げ「香港は学ぶべき」と強調した。全人代代表で新界社団連会の陳勇・理事長は、香港の近年の発展がマカオに後れを取っているのは「一部の者が政治至上のため繁栄や安定を破壊し、香港が備えているはずの優位性を発揮できないため」と述べ、今回の視察は香港に立ち遅れの原因を認識させる目的があるとの見方を示した。

 張委員長は9日、マカオ東亜運動会体育館で行われた各界関係者約150人との座談会で講演し、マカオが率先して基本法23条の立法を完了したことを「1国2制度の手本」と称賛。国家の安全維持で先行し「マカオ特区政府は中央の全面統治権への呼応を自覚している」と評価した。続いて立法会を訪れ議員全員と接見した際は国家観念、就任宣誓、行政主導体制に言及したほか、議事妨害への拒否を呼び掛け、暴力行為を批判した。

 政界では一様に23条への言及は香港に対する皮肉ととらえており、公民党の楊岳橋・議員は「林鄭月娥氏は23条の立法は急がないと述べていたため、張委員長の言葉は林鄭氏に対する圧力」と指摘。またマカオ立法会の民主派議員である区錦新氏は「マカオでは宣誓問題や議事妨害は発生していないため、張委員長の言葉は香港社会に向けられたもの」とみている。

 張委員長は10日、マカオ大学横琴新校区を訪れ教育界関係者と学生代表ら約100人との座談会に出席。張委員長は「マカオが返還以来17年、1国2制度の実践で目を見張る成果を得たのには教育が重要な役割を発揮した」「特区政府や幅広い教育関係者らが正確な教育方針を堅持し、愛国愛澳の良い伝統の引き継ぎを保障した」と評価した。時事評論家の劉鋭紹氏は「張委員長の発言は香港の教育の現状に対する中央の希望が反映されている。香港の教育はマカオと違い『愛国愛港』人材を育成できないと暗に批判した」と分析している。7月に来港する中央幹部はどんな発言をするのかが注目される。
(2017年5月25日『香港ポスト』)

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