香港・マカオ News

2017.11.30 / 

ASEANと自由貿易協定 一帯一路で有利に

香港とASEANの自由貿易協定と投資協定の調印式(写真:政府新聞処)

 香港と東南アジア諸国連合(ASEAN)は11月12日、フィリピンで自由貿易協定(FTA)と投資協定に調印した。香港にとっては中国の「一帯一路」戦略に呼応するための重要な布石となり、「一帯一路」戦略を補完する「粤港澳大湾区」の構築についても広東省側と積極的な協力を図っている。

 2014年7月から3年余りの交渉を経た香港とASEANの自由貿易協定は早ければ19年1月1日に発効。協定によりASEAN諸国は香港の輸出貨物に対する関税を逐次削減または撤廃する。マレーシア、インドネシア、ミャンマーは10年以内に65~85%の関税を撤廃、シンガポールは香港の貨物すべてに対する関税を撤廃するという。サービス貿易についてはタイ、フィリピン、ベトナムが多くの業界について香港企業に対する投資制限を緩和し、出資比率50%以上や全額出資も認める。また香港のビジネス旅行者はASEAN諸国での滞在日数が90日に延長される。調印式に出席した特区政府商務及経済発展局の邱騰華・局長は「すべてのASEAN諸国は『一帯一路』沿線の経済体であり、自由貿易協定と投資協定によって緊密な関係を築けば『一帯一路』による商機に合わせることができる」とコメントした。

 林鄭月娥・行政長官は11月13日、第9回世界華人経済サミットに出席し、この自由貿易協定と投資協定に言及。林鄭長官はASEANが香港にとって第2の貨物貿易パートナー、第4のサービス貿易パートナーであることを挙げ、「協定の調印は中国本土、香港、東南アジア諸国の貿易関係にとって重要な一里塚である」と述べた。さらにアジア、欧州、アフリカにまたがる「一帯一路」戦略は沿線諸国の経済、インフラ、文化の促進に有利となるため「香港は『一帯一路』と粤港澳大湾区の契機を生かして本土市場に参入したい外国企業に対し法律・会計・保険などの専門サービスを提供できる」と指摘した。

 香港では9月にも政府による「一帯一路」サミットが開催されるなど、香港を通じた「一帯一路」参入の宣伝活動が盛んだ。国務院外交部駐香港特派員公署は11月8日、香港にある外国商工会27団体と国際企業の代表115人を招き、中国共産党第19回全国代表大会(19大)の精神を紹介する説明会を開催。謝鋒・特派員が19大後の中国の方向性や香港統治の新戦略など8分野について解説した。謝氏は駐香港特派員公署が香港にかかわる新時代の外交戦略として「中国本土+香港+一帯一路沿線諸国」の三者協力システムの深化を推進していくと表明。外国商工会と外国企業が「新時代の中国の特色ある社会主義」建設、「1国2制度」実践の新段階、「一帯一路」「粤港澳大湾区」建設がもたらす歴史的チャンスを生かすためにも、「早く行動すれば早く収穫が得られる。相互補完による協力でともに利益を得よう」と早期参入を呼び掛けた。

 広東省と香港の協力会議「粤港合作連席会議」第20次会議が18日に香港で開催され、粤港澳大湾区の建設を今後の協力の重点とすることで合意した。粤港澳大湾区は7月に広東省、香港、マカオの3地政府が国家発展改革委員会と枠組み協定に調印した後、すでに計画策定段階に入った。来年初めに中央の批准を得ることを目指しており、同計画が今後の広東省、香港、マカオの協力の青写真となる見込みだ。林鄭長官は粤港澳大湾区を推進する重点として、(1)国際的な科学技術イノベーションセンター建設(2)人・物・資金・情報を全面的に自由に流通させる(3)香港の優位性を持つ産業を大湾区に進出させる――ことを挙げた。特区政府政制及内地事務局の下部組織として「推進大湾区建設弁公室」を設置し、具体的な措置を実現する。また林鄭長官は、立法会の超党派議員から提示された粤港澳大湾区視察の要求を広東省の馬興瑞・省長に伝え、前向きな回答を得たことを明らかにした。

上海の自由貿易港が脅威

 粤港澳大湾区に関しては香港が主導するとの認識が広がりつつある。スイスUBSの汪涛・アジア経済研究主管は16日、北京で行われたフォーラムで粤港澳大湾区について講演し「粤港澳大湾区は米国のベイエリアと違って金融センター、海運センター、製造業センターなどを含み、各都市が地域の中核になるべく競っているのではなく、それぞれの優位性と特徴が相互補完の効果をもたらしている」と指摘。このため香港は国際金融センターとして粤港澳大湾区や中国全体の市場に対し資金調達などのオペレーションを行うことができ、「短期的には香港に取って代わるものはなく、これら機能は存在し続ける」と述べた。また粤港澳大湾区の発展で「香港と大湾区の都市間との交通が便利になれば、香港の不動産価格の高騰が収まり商業経営へのコスト圧力も緩和する」との見方も示した。

 深セン市人民代表大会の金心異(張紅橋)代表は微信(ウィーチャット)アカウント「断層智庫」で14日に掲載されたインタビューで「粤港澳大湾区は香港の発展を主としており、香港は中国が世界経済の発言権を高める重要なプラットホームとなる」と述べている。中国経済の転身・高度化は現代サービス業の発展であり、金融・資本をコントロールする経済発展モデルを目指し、その中で世界3大金融センターの1つでもある香港を抱える粤港澳都市群は最も有利な立場にあると説明。広州と深センは1、2年のうちに域内総生産(GDP)で香港を超えるが、香港が世界の金融・資本市場体系に持つ位置付けは広州と深センが30年かかっても追いつけない。このため粤港澳大湾区の計画が広東省主体になっては中央の意図に合致しないとみている。

 一方で19大での習近平・総書記(国家主席)による報告で提唱された自由貿易港として上海市が浮上したことで香港の脅威となることが懸念されている。『人民日報』の微信アカウント「侠客」は12日、汪洋・副首相が11日付同紙に掲載した論説「全面開放の新たな局面形成を推進する」を読み解き、自由港は上海、天津など11カ所の貿易試験区のバージョンアップ版と指摘。「香港やシンガポールは手本であり、競争相手であり、追い抜く対象」だと述べている。上海はすでに中央に自由港建設案を提出したほか、先のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で習主席が来年11月に上海で第1回中国国際輸入博覧会を開催すると表明。同博覧会は上海が自由港となるのを後押しし、香港の会議・展示会産業や貿易業が挑戦を受けるとみられている。だが、香港工業総会の郭振華・主席は「上海自由港は華中・華北地域の貿易を呼び込めるが、華南地域は香港が地理的優位性を持つ」として香港と粤港澳大湾区との協力強化を提唱した。中国の発展が新たな段階に進むのに向けて、香港は粤港澳大湾区での足場固めを急がなければならないだろう。(2017年11月30日『香港ポスト』)

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