香港・マカオ News

2017.12.12 / 

中央高官が相次ぎ言及 基本法23条の立法

非親政府派による「威権統治に反撃しよう」デモ(写真:瀬崎真知子)

 全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会副秘書長兼基本法委員会主任の李飛氏が11月16日、香港で講演し「基本法は実施20年になるが、いまだ23条に基づく立法が実現していない」と述べた。昨今の「香港独立」宣揚や国際政治の動向への警戒から、中央は香港に対して基本法23条で規定された国家分裂や政権転覆などを防ぐ条例の制定を求めており、いよいよ立法に向き合わねばならなくなったようだ。

 香港衆志や社会民主連線(社民連)などの非親政府派団体が12月3日に開催した「抗争者とともに威権統治に反撃しよう」と題するデモ行進では基本法23条に基づく立法に反対するプラカードも掲げられた。主に就任宣誓をめぐる裁判で議員資格を喪失した元立法会議員らが議員報酬などの返納を拒否するためのデモだったが、棚上げされてきた23条に基づく立法への着手が現実味を帯びて来たことが表れている。

 中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の王志民・主任は11月13日、立法会の親政府派議員を招いた食事会を開催。中国共産党第19回全国代表大会(19大)に関連して中央の香港に対する全面統治権や国家安全は憲法責任であることなどに言及し、「まだ基本法23条に基づく立法が完了しておらず、国家主権、安全、発展の利益を脅かす多くのリスクが取り除かれていない」と指摘した。中央高官としては初めて基本法23条について具体的に踏み込んだ発言となった。

 続く16日、李飛氏が香港で開催された「香港特区成立20周年『基本法』研討会」で講演し、その模様は一部学校でも生中継された。李氏はまず香港特区の根源について「一部の者は香港基本法が香港の憲法と述べ、故意か無意識に国家憲法をなおざりにし、ひいては香港の立憲政体の根拠は中英共同声明だという者もおり、これらはすべて不正確」と指摘。「本土自決」「香港独立」などを掲げた分裂主義行動に対して「躊躇なく封じ込め、反対すべき。国家と民族の歴史を知らない青少年がよこしまな考えを持つ者に毒されている」と批判した。

 国家における香港の位置付けについては「1国2制度は国家制度内にあり、中央の指導の下で中国本土は社会主義制度、香港は資本主義制度を実施。香港特区の制度も国家制度の一部で、憲法の規定に背いて運営はできない」「高度な自治は基本法が授与した権力の行使で、基本法を逸脱した高度な自治はなく、いわゆる『自決』『独立』の権力もない」と説明。さらに「基本法は実施20年になるが、いまだ23条に基づく立法が実現していない。法律の欠如がもたらしたマイナス影響は衆目が認めるところ。法律制定と厳格な執行によって国家の主権と安全を守ることは避けられない任務」と強調した。

 中国の憲法記念日に当たる12月4日には香港で初めての「国家憲法日」座談会が行われた。座談会に出席した中連弁法律部の王振民・部長は、憲法第1条に「社会主義制度は中華人民共和国の根本的制度。いかなる組織・個人も社会主義制度を破壊することを禁じる」と規定されているのを挙げ、「香港では社会主義制度を実施しないとしても、香港も国家が実施している社会主義制度を尊重しなくてはならない」と説明。香港は返還後、国際政治上すでに「赤い中国」の版図に入っているため「赤化するしないの問題は存在しない」と述べ、いまだ中国共産党の指導を受け入れられない者がいると一蹴した。また基本法を憲法化して中国憲法と並列関係にしようとする者について「その本質は香港と中国の関係を引き裂くこと」と批判し、全人代常務委員会が基本法の解釈権を持っていることは憲法が基本法より高い位置付けにあることを反映していると指摘した。こうした中央官僚らの発言には香港を通じた中国本土への破壊活動に対する危機感がうかがえる。

全人代候補らが推進提唱

 先に香港への入境を拒否された英国保守党人権委員会のベネディクト・ロジャーズ副主席らは12月11日、ロンドンでNGO組織「香港監察(ホンコンウオッチ)」を設立した。メンバーにはロジャーズ氏のほかに元英外相のマルコム・リフキンド氏、英上院議員のデビッド・オルトン氏らが名を連ねている。英国ではまたシンクタンクのヘンリー・ジャクソン・ソサエティーが10月末に香港人権リポートを発表。ロジャーズ氏や本土民主前線の梁天琦氏も執筆している。米国や日本でも一部勢力が香港の過激な勢力と連携する動きが見られており、全人代香港代表の馬逢国氏は「香港独立分子が外国勢力との結託を深めれば、ますます中央の警戒を招き、実際のところ香港社会にメリットはない」と批判している。

 第13期全人代香港代表の選挙が12月19日に行われるのに向け、香港で11月22日、代表を選出する選挙会議の第1回全体会議が開催された。会議を主宰した全人代常務委員会の王晨・副委員長兼秘書長は「中央の権力と基本法の権威に挑戦し、香港を利用して中国本土に破壊活動を浸透させることは絶対容認できない」と述べ、代表選挙は1国2制度や高度な自治の実現、香港の安定と繁栄を維持するため重要な意義を持つと強調した。今回の選挙からは候補者が「中国憲法、基本法、1国2制度の方針を擁護し、中国と香港またはマカオ特区に忠義をつくし、直接または間接的に外国の機関・組織・個人からいかなる形式の選挙資金提供も受けていない」という声明に署名することとなった。

 候補者らが続々と立候補を届け出る中、メディアは候補者らに基本法23条の問題について尋ねた。民主建港協進連盟(民建連)の譚耀宗・前主席は「近年、香港社会に変化が現れ、以前は公然と香港独立を宣揚する者はいなかったが、現在は組織的に学校に浸透させて青少年に影響を与えている。このため政府は立法作業を行わねばならない」と答えた。特区政府政制及内地事務局の譚志源・前局長は「すでにマニフェストに23条の立法を処理しなければならないと明記した。返還から20年が過ぎ、今期政府はまだ4年半の任期があるから立法作業を行う時間は十分」と答えた。民建連メンバーの葉国謙氏も「特区政府は時機を待っているだけでなく積極的に立法ムードをつくり出さなければならない」と述べた。

 香港律師会元会長の林新強氏は「刑事罪行条例」に反逆または煽動に対する条文があるものの、「国家分裂の煽動分子を懲罰できる条文はないため、現行の法律では不十分。立法は非常に差し迫った必要性がある」と指摘。2003年に立法に失敗したことで機を逸し、現在あらためて立法するならば条文は当時より厳しくなり過激な勢力にとっては損失が大きいとの見方を示した。先には全国的な法律である国歌法が香港にも適用されることが決まった。このため同様の方式を通じて国家安全法が香港に適用されるとの懸念も出ており、自らによる立法を急がねばますます不利になるとみられている。(2017年12月12日『香港ポスト』)

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