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小売市場、SARS期より悪化 旺角暴動で打撃も
春節(旧正月)連休に当たる2月7~10日の入境者数は前年同期比9.8%減の56万5000人、特に中国本土からの旅行者は同10.6%減だった。観光客の減少は顕著で、昨年の来港者数は前年比2.5%減、今年も同1.8%減となる見込みだ。小売市場は2年連続のマイナス成長となり、重症急性呼吸器症候群(SARS)流行による打撃を受けた2003年より悪化している。旧正月元日に当たる2月8日に旺角で発生した暴動も観光・小売業にさらなる打撃を与えているようだ。
香港旅遊業議会の董耀中・総幹事は2月13日、商業電台の番組に出演し、旧正月期間の本土からのツアー客は昨年の約380組から70%減の約120組だったことを明らかにした。過去十数年で最大の下落幅となり、「短期的に回復する見込みはない」と断言した。ホテル業界団体である酒店業主連会の李漢成・総幹事も同番組で、「旧正月期間のホテルの平均客室稼働率は80%余りを維持したものの、宿泊料は引き下げ圧力を受けて15~20%下落した」と指摘。さらに旺角の暴動を受けて同エリアのホテル宿泊料は即座に下落。予約していた客がホテルを変更したか、香港に来るのを取りやめたためとみている。
香港政府観光局(HKTB)が発表した観光統計によると、昨年12月の来港者数は前年同月比10.7%減の延べ506万1064人。うち本土からの旅行者は同15.5%減の延べ372万1049人。昨年通年の来港者数は前年比2.5%減の延べ5930万7596万人、うち本土からの旅行者は同3%減の延べ4584万2360人。特に宿泊客は同3.9%減で、宿泊客1人当たりの平均消費額は同9.1%減の7235ドルだった。HKTBの予測では、今年の来港者数は同1.8%減の5826万8000人、うち本土からは同3.2%減の4435万3000人。1人当たり平均消費額は為替の影響もあって同4%減の6948ドルに低下し、過去6年で初めて7000ドルを割り込む。全体的な観光収益は同1.6%減の3284億ドルに落ち込む見込みだ。
HKTBの劉鎮漢・総幹事は「他国の中国本土観光客に対するビザ緩和、香港ドルに対する通貨安、深セン市民の数次ビザ引き締め、並行輸入活動への抗議デモなどの影響で来港者数は減少している」と説明。旺角の暴動についても「香港に対するイメージに非常にマイナスとなった」と述べ、旅客サービスセンターには安全を確認する問い合わせが相次いでいることを明らかにした。
観光客の減少で小売業界への打撃は顕著だ。特区政府統計処が発表した昨年12月の小売業総売上高は前年同月比8.5%減の437億ドルで、10カ月連続の減少となった。特に売上高が減少したのは、宝飾品・時計・高級贈答品の同17%減、百貨店商品の同12.3%減、衣類の同12.1%減、電器・撮影器材の同9.3%減などとなっている。昨年通年の小売業総売上高は前年比3.7%減の4752億ドルで、2年連続のマイナスとなったほか、03年の同2.3%減より減少幅が大きい。特に宝飾品・時計・高級贈答品は同15.6%減だった。特区政府統計処は「観光業の低迷以外に経済の先行き不透明、資産市場の調整が市民の消費意欲を低下させる」とコメントした。
小売業界団体である香港零售管理協会の鄭偉雄・主席は2月3日、「SARS期より悪いとは意外で、業界は懸念を極めている」と指摘。観光客の減少だけでなく地場の消費が慎重になっていることから今後数カ月は楽観できず、旧正月後は一部商店で閉店、人員削減もあると予想する。本土観光客が顧客に占める割合が大きい宝飾品販売の六福珠宝は、昨年第3四半期(10~12月)の売り上げが前年同期比26%減。前期に比べ減少幅が拡大し、8期連続のマイナスとなった。化粧品の莎莎の昨年第3四半期の売り上げは17億4000万ドルと前年同期比15.8%も減少した。地場アパレルブランドのボッシーニは昨年7~12月の中間決算について純益が前年同期比で80~90%程度下落するとの見通しを示した。過去10年で最悪となる。
今年の来港者1.8%減に
民間企業の経営環境が悪化していることは明らかだ。日本経済新聞社と金融統計機関マーキットは2月3日、1月の香港の購買担当者指数(PMI)を発表した。1月のPMIは46.1で、昨年12月の46.4から0.3ポイント下落。11カ月連続で景況判断の目安となる50を下回り、過去4カ月で最低となった。全体的な新規仕事量と中国本土の新規業務量の減少が著しく、購買削減のペースが昨年8月以降で最も速いとともに適度な人員削減も行われている。マーキットのエコノミストは「企業は業務状況が短期的には改善されないと予測している。世界経済の先行き不透明と中国経済の減速は引き続き香港企業のパフォーマンスに圧力となる」と述べた。
香港生産力促進局が1月28日に発表した「渣打香港中小企業領先営商指数」も同様だ。同指数は昨年12月に中小企業809社を対象に第1四半期の「ビジネス状況」「収益」「投資の意向」「採用の意向」「世界経済の状況」の5つについて見通しを調査したもの。総合指数は42.8で、景況判断の分かれ目となる50を下回った。12年に同指数の発表が始まってから最低となる。3大業界指数はいずれも50を下回り、製造業が41.1で最も悲観的。貿易・卸売業は41.6、小売業は42.7だった。5つの分類指数で50を上回ったのは「採用の意向」の50.8だけで、「世界経済の状況」が最も低い26.2、「収益」が36.6、「ビジネス状況」は40.3、「投資の意向」は48.3だった。
国際通貨基金(IMF)が1月20日に発表したリポートでは、香港の域内総生産(GDP)伸び率について昨年は2.2%、今年はそれを上回る2.5%と予測。「中国本土の経済減速と米国の利上げに伴う世界金融市場の動揺による香港への影響は限定的」とみてやや楽観的な見方を示した。また不動産市場に対する当局の措置は金融の安定リスクに応じて調整すべきで、住宅取引が引き続き減少し全体的な経済にマイナス影響をもたらすならば印紙税措置を緩和すべきと指摘した。
一方、香港上海銀行(HSBC)経済研究アジア太平洋区の范力民・連席主管は1月14日、主に内外需要の低迷から香港の今年のGDP伸び率予測をもともとの2.2%から2%に下方修正したと発表。実質給与は引き続き上昇し、失業率も低水準にあるため、小売業にはプラス効果があるものの、「観光客の減少で小売業の売上高が減少するのは避けられない」と指摘した。さらにマーキットのエコノミストは2月11日付『香港経済日報』で、今年のGDP伸び率は1%を割り込む可能性もあるとの見方を示した。各機関の経済見通しは今後ますます悲観的になっていきそうだ。(2016年2月26日号『香港ポスト』)