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2017.09.08 / 

財政余剰の活用提唱 経済成長の加速へ

財政は黒字だがGDPは伸び悩んでいる(写真『香港ポスト』)

財政は黒字だがGDPは伸び悩んでいる(写真『香港ポスト』)

行政会議メンバーを務める香港金融管理局(HKMA)の任志剛(ジョセフ・ヤム)前総裁が先ごろ過去10年の財政政策を批判する論説を立て続けに発表した。毎年のように莫大な黒字を計上しながらも緊縮財政を維持していることが香港の経済成長率を低くしていると指摘。林鄭月娥・行政長官が積極財政を推し進めるための布石ともみられている。

特区政府が発表した第2四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で3.8%となり、前期の同4.3%から縮小。ただし前期比伸び率は1%で、前期の0.7%から拡大した。世界経済の下振れリスクが減退し、外部需要は引き続き改善。このため輸出は前年同期比5.6%増となった。特にアジア市場への輸出が主なけん引力となっている。労働市場の状況は良好で資産運用のパフォーマンスも高いため、個人消費は同5.3%増。設備投資や建設活動が引き続き伸びているため、全体的な投資は同8%増と大幅な伸びを見せた。上半期のGDP伸び率が4%だったことを考慮し通年伸び率予測は5月に発表した2~3%から3~4%に上方修正した。

特区政府がGDP伸び率予測を上方修正したのを受け、金融界も相次ぎ経済予測を修正。バンクオブアメリカ・メリルリンチは成長の勢いが下半期も続くとみて通年伸び率予測を2.8%から3.4%に上方修正。スタンダード・チャータード銀行も3%から3.4%に修正。恒生銀行も2.8%から3.4%に修正し、2018年の予測についても2.5%から2.8%に上方修正した。

しかし全国人民代表大会(国会に相当)の張徳江・委員長が3月、昨年のGDP伸び率が9%だった深セン市が2、3年後には経済規模で香港を超えると指摘し「香港は政治的対立にかまけていてはならない」と警鐘を鳴らすなど、近年の香港のGDP伸び率が低水準にとどまっていることには危機感が高まっている。

行政会議メンバーの任志剛氏は8月3日、5年ぶりに再開した個人ブログ「観点」で「特区政府が過去10年、一貫して『守銭奴』政策を取ったため、大量の財政余剰をもたらした半面、経済は停滞している」「経済成長の速度が遅過ぎるときは政府の財政支出を増やし、減税や赤字予算を組む必要がある」と述べ、暗に過去約10年にわたり財政長官を務めた曽俊華(ジョン・ツァン)氏を批判した。さらに財政の収支均衡を求めている基本法107条について「財政支出はGDPの20%以下に抑えるべき」などの理解は正確ではなく、1つの経済サイクルの中で収支均衡を達成すればいいと説明した。林鄭長官が政権公約(マニフェスト)で示した積極財政の針に沿って10月に発表する施政報告(施政方針演説)で具体的措置を打ち出す予告ともいえそうだ。

任氏は続く24日にも論説を掲載し、近年の公共財政管理の姿勢を研究する際には過去約10年、毎年の財政予算案で莫大な黒字を計上していることに留意すべきと指摘。これは「政府が社会から得た金銭が、政府が社会の民生・経済発展の促進に費やした金銭より多い」ことを意味しており、「この金銭を社会に投じて財政余剰がなくなったとすれば、香港の経済成長率は高くなるはず」との見方を示した。さらに政府が蓄財を市民に還元する場合は「経済成長への波及効果が比較的大きく、生産力向上につながるプロジェクト」を優先的に考慮すべきと述べた。

任氏の論説を受けてHKMAの陳徳霖・総裁も27日、財政余剰の活用に同意を示し「役に立てられさえすれば問題ない。例えば財政余剰をインフラ建設に使えば香港の将来的な競争力や生産力の向上につながる。それは投資であり、将来、経済的なリターンとして反映される」と述べたほか、将来の投資の方向性としてインフラを除けば金融業をはじめとするソフト面の強化が最も重要と主張した。また昨年7月に設置したインフラ融資促進弁公室(IFFO)が「一帯一路」のインフラ投資促進の役割を発揮し始め、すでに70以上の協力パートナーを得たことを明らかにした。さらにファンドの関心を集められるよう「一帯一路」の優良プロジェクトを模索するシステムをつくる意向だ。

「一帯一路」は3段階で

特区政府商務及経済発展局の邱騰華・局長は8月19日、経済成長への原動力として期待される「一帯一路」に言及し「過去20年の間に世界経済の重心が東にシフトしたため、香港と欧米諸国との貿易の割合が縮小し、アジア地域での貿易は75%を占めている。特に香港の貿易に占める中国本土の割合は20年前の30%から昨年は50%を超えるまでになった」と説明。「一帯一路が国家の主導する大規模な国際経済貿易プラットホームを形勢することで、高度な外向型経済の自由港である香港への影響は言うまでもない」と語った。

現在、「一帯一路」での香港の役割を実現するため中央と協議を行っており、(1)香港独特の優位性を明記するなど香港の「一帯一路」での役割を確定した協定を中国本土と調印(2)国家発展改革委員会や関連省・市・自治区など本土の関連部門と定期的な意思疎通システムを構築(3)香港各業界の積極的な参画を奨励――の3段階で推進することを明らかにした。

特区政府は6月13日、香港がアジアインフラ投資銀行(AIIB)の新メンバーとなったことを発表。陳茂波・財政長官は「香港は1国2制度の優位性と成熟した金融市場を擁し、国際金融センターとしてAIIBの資金調達をサポートできる」と述べたほか、香港の専門サービス業と金融サービス業はIIBの運営に貢献でき、関連業界に新たなチャンスをもたらすと指摘した。

AIIBと同じく「一帯一路」に関連する粤港澳大湾区については7月1日、中央政府と広東省、香港、マカオの3地政府が協定に調印した。林鄭長官、国家発展改革委員会の何立峰・主任、広東省の馬興瑞・省長、マカオの崔世安・行政長官は香港で習近平・国家主席立ち会いの下、「広東省・香港・マカオの協力深化、大湾区建設推進の枠組み協定」に調印。協定では1国2制度の方針を貫徹し、協力システムを改善・革新し、相互に有利な協力関係を構築することが提示されたほか、インフラ施設の建設、市場の一体化、国際科学技術イノベーションセンター、現代産業体系の共同発展、良質な生活圏構築など粤港澳大湾区の重点的な協力分野を確定した。

協力目標には香港の国際金融・海運・貿易の3大センターの地位を強化することや、オフショア人民元業務の世界的ハブの地位と国際資産運用センターとしての機能の強化なども盛り込まれ、4者は毎年定期的に会議を開催し、重大な問題や協力事項の調整・解決を図ることも確認された。これは悪性の競争や重複建設を防止するために住み分けを図るものであり、競争力の維持・向上にはこうした周辺地域との協調が欠かせないといえる。(2017年9月8日『香港ポスト』)

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